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「近頃の若者は慎重で堅実、ガッツがない」と言われるが、果たして正しいか？ "Hello"をテーマとした「多摩美術大学グラフィック学科卒業制作展2011」。一見ポップで軽やかな、若者達からの挑戦を込めた「挨拶」だ。

2011年3月28日、多摩美術大学グラフィックデザイン学科が卒業制作展をウェブ上で公開した。学内で開催予定だった卒業制作展が東日本大震災の影響で中止になったことを受けて、「それならば」と学生たちが自主的にウェブ展を企画、開催したのだ。このウェブ展開催の中核を担ったのは、卒業制作実行委員長の樋口裕二（ひぐち ゆうじ）さんと、同じく運営委員の西村斉輝（にしむら なおき）さんの二人だ。

学内展の中止を知った実行委員は、震災から１週間後にウェブ展を開くことを決定した。「卒業式に間に合わせたい」との思いからサイト制作担当の西村さんは寝る間を惜しんで作業を進めた。結局、卒業式そのものも中止になったのだが、ウェブ展開催を決定した１週間後にサイトをリリースし、ネット上で反響を呼んだ。

「表現コースの天才」と呼ばれる姫田学さんのイラスト

毎年、卒業制作展に合わせて紙媒体の作品集は出版されてきた。「全員の作品を掲載したウェブサイトも作りたい」との声は毎年上がるものの、実際に制作されたことは今までなかった。そもそもグラフィックデザイン学科はイラストなどの視覚的なデザインを学ぶところであり、ウェブ制作の技術的なノウハウは専門外だからだ。

そこで西村さんが活躍した。西村さんはウェブ制作なども行うデザイン会社でアルバイトをしており、コーディングなどのウェブページ作りの技術も持っていた。また、作品集用に集めた素材をある程度自動的に編集できるプログラムを組んだことで、短期間で公開することができた。今回作ったシステムがあれば来年以降の学生もウェブ展の開催が容易になるかもしれない。しかし樋口さんと西村さんは後輩に引き継ぐ予定は今のところないという。「上の学年は越えたいというライバル意識はどの学年にもあるでしょう（笑）」。

樋口さんと西村さんは２年生のとき、グラフィックデザイン学科の仲間幾人かと学科内フリーペーパー『GRAPH PRESS』を創刊した経験を持つ。編集も運営も初めての経験だったがスポンサーとなる企業がつくなど本格的なものになった。その『GRAPH PRESS』の編集メンバーも2011年の卒業制作実行委員に参加している。

こうした経験が学外展やウェブ展の開催に役立った。これまでの慣習を捨て、無駄を省き、すべきことを的確に判断した。効果的なPR方法やスポンサーの集め方、作品集の部数決定など、デザイナーとしてだけではなく、オーガナイザーとしての目線を持ち合わせたことが成功に導いたのだ。ウェブ展に関しては、フェイスブックやツイッターに連動させることで拡散効果を狙った。そうした工夫の結果、３月５日から３日間開催された学外展では、予想を大きく上回る4000人の集客に成功した。

ウェブ展は開催して２週間ほどで訪問者数9000人を越え、その後も増え続けている。ツイッターなどからウェブ展を知った閲覧者からは、「多摩美の実力を見せつけられた」、「クオリティーの高さに驚いた」などの書き込みが後を絶たなかった。実行委員の二人は、「普段の展示だと記帳ノートからくらいしかお客さんの感想を知るチャンスがない。ウェブは見た人からのレスポンスが手に取ってわかるところが魅力です」と話す。

昨年の卒業制作展のコンセプトは「ism」、その前の年は「Wow」だった。今年のコンセプトは「Hello」。例年の習慣で「コンセプト＝展覧会名」となっていたが、今年はあえてタイトルにコンセプトを入れなかった。言葉ではなくて自分らのフィールドである「ビジュアルで勝負したかった」からだ。「コンセプトはあくまで全体のコンセプトであり、それぞれの作品ごとに意味や価値がある」と樋口さんは話す。その上でストレートなコンセプトにした。「『Hello』という挨拶には、社会人になる節目に大声で挨拶してデビューするという思いを込めているんです」。彼らの大声の挨拶に初心にかえる。