ArtWalk's Pick up Artist "作るヒト"
イラストレーター 森本ひであつ(もりもと ひであつ)
アトレ吉祥寺オープニングの看板イラストや、井の頭公園のアートマーケッツ、『吉祥寺アート&ギャラリーマップ』の表紙イラストなど、吉祥寺での活躍で馴染みのある“カワイイ”独特な世界観が人気のイラストレーター、森本ひであつさん。
イラストレーターになるまでの経緯や作品に込める思い、今後の展望などを伺った。
text and photo / Yoshinori Asuma
——―絵は幼少の頃から描いていたのですか?
いえ、思い出としては子供の頃、折り込みチラシの裏に描いた落書きくらいもので。学校の美術の時間も当時はあまり得意ではありませんでした。 中学校からは高専に進み、後の大学卒業までコンピュータ回路の仕組みやプログラミングを学んでました。今のアナログな作業が中心の"絵描き"とは、全く違った環境にいました。その後、絵を描くことを意識し始めたのは、社会人になってからです。大学卒業後、就職したのはコンピュータ関連の会社でした。しかし、この世界で進んでいくことに自信が持てず・・というのも、どんどん進化するコンピュータの世界でその変化についていくことに限界を感じていたからでした。心から好きではなかったというのが大きな理由かもしれません。経験を積み重ね一生をかけて続けられる仕事に就きたいと、いつしか考えるようになっていました。そんな時、本屋で偶然出会ったのが、「かばんに色えんぴつ(視覚デザイン研究所)」という本です。この本をみて、自分も絵を描いてみたいと衝動に駆られて。その柿崎こうこさんのプロフィールをみると、『セツ・モードセミナー』という学校出身だというのが分かって。それから街中でふと惹かれた絵を調べてみると、作者がそのセツ出身というのが多くて、僕もセツで学びたいと思うようになりました。
——セツ・モードセミナーに通われていた頃について教えてください。
イラストレーターになりたいと思い入ったセツだったのですが、そこで評価されている絵は自分のイメージしていた一般的なイラストではなく、どちらかというと抽象的で絵画的というか、ちょっと何だかわかりづらいような絵が多かったです。いわゆる"セツ風"といわれる作品が教室にずらっと並んでいて。最初は目指す方向が違うんじゃないかと不安になることもありました。ただ、それは全くの杞憂でした。授業は基本的に、ほとんど実技が中心で。中でもクロッキーが多くて、モデルさんを10分で仕上げるというのを何度も繰り返していました。月に数回ですが、大きめの水彩紙に絵の具を使って描く授業は特に楽しくて印象に残っています。とにかくセツでは、ストイックに絵に向き合ってひたすら描いていたという思い出です。そうしていく中で絵の構図というものがだんだん分かってきて。絵の土台作りの感覚をつかんでいくことができ、構図がしっかりしてくるとイラストにも応用していけるんだということに気付き始めました。自由でのびのび素敵な絵を描く人がたくさんいてそういった周りにいた人達からもとてもいい刺激をもらいました。今では、これらの経験が僕の絵の礎となっていると実感しています。またセツは、学校側から就職や仕事を紹介してくれるというのが一切ありませんでした。その結果、積極的に自分たちで展示や売り込みをすることの重要性も自然と学ぶことが出来ました。
——セツ在学中から様々な場所で作品を展示されてきましたね。
2001年、西荻窪にあるニヒル牛で作品を展示したのが最初です。当初は小さい区画に小品数点を並べていたのですが、ある時、店の方から店内の大きな壁面を使って作品を描いてみないかと声をかけて頂いて。そこで制作した作品をマンガ家のやまだないとさんが購入して下さったんです。井の頭公園で作品を出し始めたのも、同じ頃です。たまたま通りがかった西原理恵子さんにもその時に展示した原画を購入して頂いて。まだまだ自分の方向性が定まっていない時期に、絵を生業にしている方に評価されたことはすごく励みにもなりましたし、まだ描き続けていいんだなとも思いました。その後、ほぼ日刊イトイ新聞で連載されていたコーナー『カワイイもの好きな人々。』の中で、当時描いていたオーダー絵を紹介して頂いて。ぜひ描いて欲しいという依頼を数多く頂くようになりました。井の頭公園での経験や出会いからたくさんの扉が開いていったように感じます。また2009年からは、モルトベーネのヘアスタイリングシリーズ「ロレッタ(Loretta)」の商品パッケージを担当することになり、こちらは美容関係の方はもちろん、一般の方々にも広く僕のイラストを見て頂ける機会になりました。
——今後のご自身について教えてください。
最近一番大切にしているのは、“絵を描いている瞬間”です。以前は生活のためにとか、期日通り納品するためにとか、迫られて描くことも多くて、辛く感じることも多くありました。でも今はキャンバスに向き合って集中している時間の中で、“この瞬間が最高”という身体全体でじわっと充実する感覚が、少しずつ増えてきました。今後はこの瞬間をもっと多く味わえるよう描いていきたいです。それから、自分の中で絵に対する意識も少しずつ変化しています。例えば昔の作品では、お花が綺麗だなと感じている子供がいたとすると、そのお花に酔っている子供の状況の可愛さを表現していました。しかし新作では惹かれるものがありつつ、それとは別に放り出せない大事なものがあり、欲求と大切なものとの間の微妙なバランスを表現しようと試みました。是非こちらは作品をご覧頂いて感じて欲しいです。
また、これは大きな夢なのですが、僕はアイスランドのバンド、シガーロスが大好きで、いつも曲を聴きながら仕事をしています。いつかジャケットのアートワークを手がけられたらなと思っています。
——今回の吉祥寺アート&ギャラリーマップの表紙について教えて下さい。
アトリエからも近い吉祥寺は大好きな街ですし、地元ということもあってこの仕事を受けさせて頂きました。
この街の魅力は、他のターミナル駅などと比べて、日常の中に子供たちが歩いている風景をよく見ることができるという事が大きいように感じます。子供がいるっていうだけで、何だかほのぼのした気持ちになりませんか?
今回の吉祥寺アート&ギャラリーMAPでは、そんな吉祥寺の様々な風景を僕なりの角度で切り取って、春夏秋冬、4つの作品として完成させたいと思っています。
森本 ひであつ Hideatsu Morimoto
絵描き
- プロフィール
- 1974 福井県生まれ
- 2003 セツ・モードセミナー卒業
- 2005年よりイラストレーターとして独立
- 2009 アーティスト、デザイナー、イラストレーターとして独立
- 吉祥寺での活動
- 2002-2010 井の頭公園にて葉書きを路上販売
- 2004 井の頭公園での出会いがきっかけで、ほぼ日刊イトイ新聞 「オーダー絵はかわいい」 掲載
- 2006-7 吉祥寺にじ画廊 個展
- 2007 ほぼ日刊イトイ新聞 「井の頭公園 とび地)」掲載
- 2007 にじ画廊にてグループ展「春だから・・・」
- 2008〜2012 吉祥寺Loft アートショップ内展示
- 2007 井の頭アートピクニック メインビジュアル, ディレクション
- 2008 井の頭アートピクニック メインビジュアル
- 2009 井の頭公園内 グループ展「春めぐり」展 企画、運営
- 2010 吉祥寺アトレ オープン時のポスター制作
- 2011-12 井の頭公園100祭 ライブペイント
- 活動暦・受賞暦
- 2001 ニヒル牛にて作品を展示・販売
- 2002 下北沢カフェギャラリーAdd cafe 個展
- 2004 GEISAI5 「Illustration」誌スカウト審査賞
- 2004 Free Art Free 2004 準グランプリ
- 2005 原宿ペーターズ 個展
- 2005 Heart Line Project2005 企業広告大賞
- 2005 ロンドン、カムデンロックマーケット出展
- 2007 パリ3人展
- 2009 日本パッケージングコンテスト入賞「Loretta」
- 2010 アジアビューティエキスポ ライブペイント
- 2010 大森 Gallery FisetLight 個展
- 2009〜2013 Loretta パッケージ、パンフレットのイラスト担当
LINK
- 森本ひであつオフィシャルサイト: hideatsu art works
- Twitter: hideatsu_m
森本ひであつ 個展「新芽そして膝猫」
■ 会期:2013年5月23日(木)~5月28日(火)
■ 会場:にじ画廊
■ 住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-2-10
■ URL: http://www12.ocn.ne.jp/~niji/