ArtWalk's Pick up Artist "作るヒト"
02 剪画家 小沢直平(おざわ なおへい)
吉祥寺で28年。剪画(切り絵)家として活動し、
剪画を世に広め、"作る楽しみ"を伝え続ける二代目直平こと小沢直平氏にインタビュー。
地元、吉祥寺についても話を伺った。
text and photo / Yoshinori Asuma
——学生時代されていたことは何ですか?
幼い頃から喋るのが好きだったので将来は噺家になろうと思っていました。小学校を卒業して、少しでも喋りの上達に繋がればと児童劇団『劇団ひまわり』に入団。噺家を目指しながら、空いている時間を利用して俳優業をしていたんです。ただ、時代はちょうど日本映画が全盛の頃でしたから。図らずも映画監督の鈴木清順氏から声をかけて頂いて、日活でスクリーンデビューすることになりました。すると立て続けに何本も映画出演のオファーが舞い込んできて、いつの間にか噺家の道を断念し俳優の仕事を生業としていました。
——剪画との出会いについて教えてください
中学生の頃、図工の先生に見せて戴いた1枚の剪紙(京劇に出てくるお面)に強烈な衝撃を受けたのが剪画との出会いです。1枚の紙からアートが生まれるその不思議さに驚き、自己流でいくつも剪画を作るようになっていきました。俳優で忙しかった時期も、机に紙とカッターさえあれば何処でも出来てしまうので、もちろん制作は続けていましたね。
俳優という商売は自分を商品化し、“いつも他人から見られている”という意識の元で表現していました。剪画家も1枚の紙から生み出す作品を多くの人に見てもらう、いわば表現者ですから、自分の見方がより多角的になっていくのを感じました。
——俳優や剪画の活動の他に飲食店経営もされていたそうですが、なぜ飲食店を?
好きだった吉祥寺に自分の店を持ちたいと思ったからです。ただ、これは剪画家の活動とは全く分けて考えていたので、あくまで仕事として“飲み屋のおやじ”に徹し、自分の作品を店に置くような事はしませんでした。しかし、吉祥寺のコミュニティーセンターで作品展示をしたり、イベントで剪画の講師を頼まれたり。そして、吉祥寺末広通り商店会の街路灯デザイン公募で私のキャラクターが採用されたりして「あの飲み屋のおやじが面白いことをやっているんじゃないか」と言われ始めたんです。そして自分の店はたたんで、剪画を軸に活動していくことを決めました。
現在、毎月開催しているアトレ吉祥寺での切り絵のワークショップや剪画教室は、その飲食店を営んでいた時に繋がった人たちばかりですから、やはりこの出会いを大切にして、今後も活動していきたいと思っています。
——直平さんにとっての剪画とは?
剪画というのは、つまりは切り絵です。切り絵というと、一般的には神社や仏閣、または城というイメージがあることが多いのですが、私は全く違い、心象風景を描いています。そして、自分が歩んできた自分史だったり、メッセージ性の強いものが中心です。もしかすると、ある人からは邪道だと思われるかも知れませんが、こんな表現もあるんだと皆さんに伝えていきたいと考えています。ただ、そうは言っても剪画の魅力は芸術性だけではなく、"つくる楽しさ"もありますから。今は自分が多くの人に教える立場として、『1枚の紙からこんな作品が出来るのか』という不思議さと感動を味わってもらい、拵える楽しさを伝えていきたいと思っています。また、大切な人へのプレゼント用とか、何かのお祝いや記念とか、もっと身近に剪画を感じて欲しいという想いから、オーダーを受けての作品制作も行っています。
——直平さんにとって吉祥寺とはどういう存在ですか?
井の頭公園には学校の写生大会で訪れたり、夏休みなどにはよく友人たちと遊びに来ていましたから、私にとって吉祥寺は自分の原風景なんだと思います。それに吉祥寺には、江戸時代から住み着いた人たちの雰囲気が多分にあり、下町感覚が残っているという印象が強いですね。学生と年配の方々が雑踏の中で交差しても全く違和感がない。非常に懐が深い街だと思います。そして、古くは太宰治や山本有三、彫刻家の北村西望をはじめ、現在では漫画家やミュージシャンが数多く住み、個性的なギャラリーや老舗ライブハウスが点在している。何か創作活動をするためのパワースポット的な要素があるのではないしょうか。
ただ、一つ懸念しているのは『吉祥寺』というブランドがあるにもかかわらず、吉祥寺から発信しているものが少ないのではないかということです。何か吉祥寺でしか買えないもの、得られない事、心に残るものを作っていけるよう、私自身も吉祥寺を盛り上げる一翼を担えればと思っています。
小沢 直平 Naohei Ozawa
剪画家
- 1943年
- 朱肉屋の次男として、杉並区阿佐ヶ谷に生まれる
- 1956年
- 剪画を始める
- 1963年
- 20歳を機に初の個展を開催。以降個展開催は数十回。
- 1980年
-
現日本剪画協会会長の石田良介と出逢い、師事を仰ぐ。
2002年 第18回日本剪画美術展 会長賞受賞
日本剪画大賞、特別賞、剪書部門賞、姫路市市議会議長賞など受賞。
- 2005年
- 「直平剪画教室」開講
「読売日本テレビ文化センター」
「NHKオープンスクール」講師歴任