昆虫料理研究家・昆虫料理研究会代表 内山昭一(うちやま しょういち)
展覧会レポート 「昆虫料理写真展」@ギャラリー・ボンブラ
昆虫料理の第一人者である内山昭一氏が提案する昆虫料理は、
味や食感、栄養、果ては人類の抱える食料問題の解決にまで広がる。
そんな内山氏が魅了され、普及を目指す昆虫料理の世界に迫る——
- 期間:2011年4月3(日)〜5月5日(木)
- ウィンドウ展示:夜間照明により終日鑑賞可
- ギャラリー展示:金・土・日曜日の13:00〜19:00
- 主催:昆虫料理研究家・昆虫料理研究会代表 内山昭一
楽しくておいしい昆虫料理 29日は虫屋台で虫せんべいの販売も。収益は震災の義援金に
吉祥寺通りに面したガラスのウィンドウを見て次々に道行く人が足を止める。ウィンドウの向こうには、美しく盛りつけられた寿司や吸い物、ピザなどの写真がずらりと並んでいる。なぜ人々が立ち止まるのか。ただ、「おいしそうだから」だけではない。今まで食べたことがないからだ。
吉祥寺北町の四軒寺交差点にあるギャラリー・ボンブラで4月3日から「昆虫料理写真展」が開催されている。内容は昆虫料理の写真約30点と、昆虫の栄養価や昆虫食の可能性などを解説するパネルの展示だ。料理は、「セミずし」、「ハチノコとゴキブリの雑煮」、「ナナフシのチョコレートコーティング」、「タガメ風味の旬のバグピザ」など、和食、洋食、甘味まで様々。料理自体は美しいが、見慣れぬ"食材"を多用しているため、強烈なインパクトがある。
展示の主催者は昆虫料理研究家・昆虫料理研究会代表の内山昭一氏。内山氏は出版社に勤務するかたわら、12年ほど前から昆虫料理の研究や昆虫料理を食すイベント、普及活動などを行っている。今回の「昆虫料理写真展」についても、「本当は食べてもらうのが一番なのですが、それはむずかしいので、まずは見て楽しんでもらおうと思った」。長野県出身の内山氏はこう続ける。「信州では昔からイナゴやハチノコなど昆虫を食す文化があったし、今も残っています。スーパーでも普通に並んでいる食材です」。
内山氏が昆虫料理の研究を始めたきっかけは12年前にさかのぼる。多摩動物公園で『世界の食べられる昆虫展』というイベントがあり、そこにたまたま参加したことがきっかけとなった。「東京に出て来てから昆虫を食べる機会はなかったのですが、展示を見て昔よく食べていたことを思い出しました。しかも世界の中には牛や豚や鶏の肉よりも、昆虫のほうが値段の高いところもある。そんなことを知ってふと興味を持ちました」。そして早速、展示を一緒に見た仲間と多摩川に行きトノサマバッタを捕まえ、その場で素揚げにして食べた。「秋はトノサマバッタの旬なんです。採れたては新鮮でおいしかった。それでヤミツキになりました」と内山氏はにこやかに話す。
「採ることも食べることも楽しい」と内山氏は言う。秋はバッタ、夏はセミといった風に昆虫にも旬があり、それらを採って食べるということを定期的にするようになった。自身のブログで活動を公開しているうちに人がサイトを通じて集まるようになり、3年ほど前から月に1度、実際に食べるイベントを開催するようになった。徐々に知名度も上がり、ここ数年は国内外のメディアに取り上げられることも増え、2008年には昆虫料理のレシピ本『楽しい昆虫料理(ビジネス社)』を出版するまでに至った。
「植物を食べる昆虫は、植物由来のナッツのような風味がします。セミの幼虫に衣を付けてフライにした『セミフライ』は定番ですね。最近はセミの幼虫を薫製にした『セミクン』も人気があります」と話す内山氏。"食材"なら当たり前のことだが、昆虫の種類いによって味や適した調理方法が多様にあるということに気付かせてくれる。桜の木に生息するサクラケムシなら桜の香りがするし、川の中に生息して動物を食べるタガメは、「香りはバナナや柑橘類で、食感は洋ナシ」なのだそうだ。「体を開いて中身をこそげだし、それをそうめんのつゆに入れるといいんです。暑くて食欲のないときにお薦めです」
2009年に月刊誌『新潮45』でビートたけしと対談した際にもタガメについて内山氏は、「2007年に手塚治虫の漫画『どろろ』が映画で実写化されたのをご存知ですか。柴咲コウさんが、どろろという泥棒の役を演じています。製作中にスタッフから電話があって、『原作では、どろろがイモムシを食べているんです。映画では何を食べたらいいでしょうか』と聞かれたので、『タガメがいい』とアドバイスしたんです。そうしたら旅立ちのシーンでしっかりタガメを食べていました。タガメの味は柑橘系ですから、旅立ちにふさわしい爽やかなシーンが演出されたのではないかと思っています」と話し、「観た人は、誰もその意味をわからなかったと思います(笑)」とビートたけしに切り返されている。内山氏にとって、昆虫は身近な食材であることを裏付けるエピソードだ。
内山氏が昆虫食を広めたい理由は、昆虫の味がおいしいということ以外にもある。食料不足や自給率低下の解消、医療、子供の食育などにも昆虫を食べることは役立つというのだ。「『一物全体』といって、生物を一匹丸ごと食べるとによって、生存に必要なあらゆる栄養をバランスよく採ることができる」と内山氏は話す。漢方薬などでも昆虫は古くから使われており、栄養価が高い上に繁殖や成長も早い。また養殖に広い場所を必要としない昆虫は宇宙食としても注目されており、宇宙航空開発機構JAXAでも研究が進められている。また、子どもにとっても身近な昆虫を採って食べるということで、「命をいただく」ということを考える機会にもなる。
昆虫料理研究会の運営メンバーのひとりである飯塚恭子さんは、1年数カ月前からイベントの運営に参加している。メディア関係で働いている飯塚さんは戦争体験者から話を聞き配信する仕事をしているうちに、昆虫食に興味を持つようになったと言う。「お年寄りの経験談の中で『食べる物がないときに虫を食べたら足の痛みが消えた』などの話をよく耳にした。たまたま昆虫食のイベントを知り参加したことがきっかけです。内山さんの人を引きつける人柄もあって、いつのまにか運営するまでに至りました」。初めてイベントに参加したときは驚きもあったというが、今では「食材だと思っているので何でも食べられます」と飯塚さんは笑いながら話す。
内山氏の昆虫料理は、いわゆる"ゲテモノ"を楽しむこととは異なる。きちんと食材の下処理を行い、食材の持つ魅力を引き出す。よりおいしく、見た目も美しく食べられるように創意工夫を施す。日本では未開拓の昆虫料理という分野をひとりで探求し続けた。最近では内山氏の妻もレシピのアイデアを出してくれるようになったそうだ。「家内も信州出身なので昆虫料理には理解があります。ゴキブリは無理ですが、イナゴやハチノコは大丈夫ですね。ただ冷蔵庫だけは別で、昆虫料理専用の冷蔵庫があります。家庭不安のもとですからね(笑)」
4月29日には虫屋台で虫せんべいの販売も予定しており、収益は震災の義援金にする予定だ。内山氏も会場にいるので、いろいろな疑問や質問に丁寧に答えてくれるだろう。ほんの少しの好奇心と勇気で、新しい世界が見えるかもしれない。
「昆虫料理写真展」詳細案内
- 日時:2011年4月3(日)〜5月5日(木)
- ウィンドウ展示:夜間照明により終日鑑賞可
- ギャラリー展示:金・土・日曜日の13:00〜19:00
- 場所:ギャラリー・ボンブラ
- 住所:〒180-0001 東京都武蔵野市吉祥寺北町1-2-11
2011年の昆虫食イベント予定
- 4月16日(土)「東京虫食いフェステバル」@桃園会館(中野)
- 6月04日(土) 若虫会
- 7月23日(土) 関西クマゼミ会@大阪
- 8月06日(土) 東京セミ会
- 10月8日(土) バッタ会
- 毎月第3日曜日 阿佐ヶ谷試食会@よるのひるね
- ※詳細はHP参照 昆虫料理研究会ホームページ
Books
楽しい昆虫料理
(著)内山 昭一
若虫ちらし寿司・スズメバチのキッシュ・ゴキブリ雑煮・虫パン・コオロギピザ・タガメそうめん・カマキリ豆腐…。昆虫料理研究家・内山昭一氏が考案した和・洋・中のレシピ79点を掲載。
>>詳細はこちら
プロフィール
- 内山昭一(Shoichi Uchiyama)
昆虫料理研究家、昆虫料理研究会代表。1950年生まれ。長野県出身。幼少より昆虫食に親しむ。味、食感、栄養はもとより、あらゆる角度から昆虫食を研究。試食会を定期的に開催。健康食材「昆虫」のおいしく楽しいレシピを紹介。昆虫食の普及に努める。食品衛生責任者。東京都日野市在住。