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吉祥寺 弁天湯「ヴェスビオス火山 壁画ライブペインティング」イベントレポート
銭湯アプリ『東京秘湯』公開記念『テルマエ・ロマエ』コラボ企画 2011.02.26
2月のある土曜日の午後、吉祥寺の銭湯に行列ができた。昼間からできた銭湯に並ぶ列には若者の姿も多く、見慣れない光景に通行人も不思議そうな顔をしている。
実はこれ、あるイベントに参加する人の行列である。風呂の日でもある2月26日、吉祥寺の老舗銭湯・弁天湯で、銭湯アプリ『東京秘湯』の公開を記念して、弁天湯の壁に人気漫画『テルマエ・ロマエ』に登場するヴェスピオス火山がライブで描かれるというイベントが開催された。
『テルマエ・ロマエ』とは『月刊コミックビーム』に連載中のコメディ風呂漫画で、「テルマエ」は「風呂」、「ロマエ」は「ローマ」を意味する。ストーリーは、古代ローマの浴場設計技師が風呂で溺れるとなぜか現代日本の浴槽内にタイムスリップし、日本の風呂や銭湯の技術・アイデアに驚きながら新しい発見をし、元の時代に戻ってその技術やアイデアを活用するという内容。「マンガ大賞2010大賞」や「第14回手塚治虫文化賞短編賞」を受賞した人気作品だ。
壁画にヴェスピオス火山を描くのは、現在日本で2人しかいない銭湯壁画師の一人である中島盛夫氏(65)とその唯一の弟子である田中みずきさん。イベント中にライブペインティングを行い壁画を完成させる予定だ。
イベントは古代ローマと銭湯をテーマにしており、司会進行は、銭湯マニアとしても知られるお笑い芸人・やついいちろう氏(エレキコミック)によるもの。また 銭湯研究家・町田忍氏によって銭湯壁画についての歴史や慣用などが解説された。町田氏によると、銭湯は鎌倉時代から始まり、今のような銭湯のシステムが確立したのは江戸時代戸とのこと。また、銭湯の壁画には描いてはいけない題材があり、「猿(去る)」「夕日(沈む)」「紅葉(赤字)」などを避けて縁起を担ぐそうだ。
町田氏のトークの後には、落語家・昔々亭A太郎氏の落語が続く。袴姿からローマの衣装に着替えた昔々亭A太郎氏は、古典落語「寿限無(じゅげむ)」を古代ローマ風にアレンジして披露。「じゅげむ じゅげむ ごごうのすりきれ……」となるところが、「ジュピター ジュピター ミネルバのフクロウ アポロ ネプチューン マーキュリー……」。ハドリアヌス皇帝やローマ神話の神々の名を繰り返しまくしたてて会場を沸かせた。
落語の後は、恵比寿でイタリアンレストランを経営する岡秀行氏によって古代ローマの食事を再現した料理が会場の200人に振るまわれた。メニューは、「子豚の詰め物の丸焼きソーセージ添え」「豚肉の赤ワイン煮込み」「テスタローリのバジリコソース」など。イベントに参加していた地元の小学生らも「普段と違う味だけどおいしい」「来てよかった」などと食事を楽しんだ様子だった。
食事が終了するころちょうど、壁画のヴェスピオス火山に噴火の煙が描かれて完成を迎。最後に中島氏が壁外にサインを入れ、完成とともに会場の全員に配られたコーヒー牛乳で乾杯が行われた。
イベントの最後には、TBSの情報番組「王様のブランチ」のレポーターなども務める演歌歌手の森山愛子さんが火山壁画の前でオリジナル、カバーの5曲を披露。持ち前のこぶしを利かせた演歌に場内は盛り上がり、「なごり雪」が歌われた際には涙ぐむ観客の姿もあった。
大仕事を終えた銭湯絵師の中島盛夫氏は、「これからは一生、描くのは富士山。銭湯にはやっぱり富士山が一番」と笑いながらコメントした。また助手の田中みずきさんは、「大きな画面に別世界を描けることがおもしろい。銭湯に絵があるかないかで雰囲気は全く違うし、それに携われることが嬉しいんです」と話す。
二人の絵師が描いた古代ローマの風景は、3月いっぱい弁天湯の壁画として残される。その後は、また別の絵が上から描かれる予定だ。銭湯に浸かりながら、雄大なヴェスビオス火山とローマ港を眺めなる贅沢は、あと少し。ぜひ3月末までに弁天湯に足を運んで、その世界観を楽しんでみては。
text and photo / Kyoko Tsukurimichi
Books
テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX) テルマエ・ロマエ II (ビームコミックス)
古代ローマ時代の浴場と、現代日本の風呂をテーマとしたギャグ漫画。マンガ大賞2010大賞」や「第14回手塚治虫文化賞短編賞」を受賞した人気作品。
ヤマザキマリ作。『コミックビーム』(エンターブレイン)にて連載中。単行本は2011年3月現在、ビームコミックスより2巻まで刊行されている。