内田 有(うちだ ゆう)
展覧会レポート 「Selection・5展」@Gallery Face to Face
- 内田 有 Yu Uchida
- 「Selection・5展」
- 2011年2月25日(金)~3月20日(日)
- 土日のみ開催
- 「時間」をテーマにした作品を作り続けるガラス工芸作家・内田 有氏。彼が切り取り続けた「瞬間」と、作品に潜む「正体」とは——
色とりどりのアイスキャンディー。ひんやりと白く霜が降っていたり、溶けかかって透明になったり、今にも溶けたアイスのしずくが滴り落ちそうだったり。思わず口に入れたくなるようなポップな色使いと、存在感のあるリアルな表現は、見ているだけでワクワクしする。実はこのアイスキャンディー、ガラスで作られている。そんな「アイスキャンディーシリーズ」のテーマは「時間」だ。
吉祥寺在住の作家・内田 有氏の祖父は、美大の彫刻科を卒業しており、内田氏の両親もともに美大卒。父は彫刻、母は油絵を専攻していた。そのため、幼い内田氏にとって美術は日常そのものだった。子どもの頃から立体が好きで、次第に祖父や父と同じように彫刻に興味を持つようになった。内田氏は高校から美術系高校に進学した。「美術以外のことは知らなかったし、その後も美術を専攻し続けたのは、ただ美術を“やめなかった”だけ」と話す。その後も、「彫刻で生計を立てるのはむずかしい」と祖父から聞かされていはいたものの、好きな道を進んでみたいとの思いから大学では鋳金(ちゅうきん)を専攻した。鋳金とは、溶かした金属を鋳型(いがた)と呼ばれる型に流し込み、表面を磨くなどして仕上げる金属工芸の技術だ。しかし、内田氏は学部を鋳金専攻で卒業した後、大学院での専攻をガラス造形に変えた。
「鋳金は仏像作りにも使われる技術です。素材が金属なので色も渋い。でも、僕はアンディー・ウォーホールみたいなカラフルなものが好きだったんです。その点、ガラス造形なら、溶かしたガラスを型に流し込むという技術は鋳金と同じだだけれど、色は自由に作り出せます。これまでの技術を活かしながら、作品の幅を広げることができると思ったんです」と内田氏は話す。また、将来的に留学を視野に入れていたこともガラスに転向した理由のひとつだという。「海外の大学にガラス学科はあっても鋳金学科はなかなかありません。留学するならガラスに転向した方がいい。それで、あるガラス学科のパンフレットを見ていたら、あまりの豊かな色彩に心を奪われて、ガラス専攻を決意しました」
こうして鋳金からガラスへとフィールドを移した内田氏だが、すべての作品は共通して「時間」がテーマになっている。「『時間と生命』は重要なテーマだと思います。花が枯れる、年を取るなど、移り行くものに美を感じるんです。しかし、 満開の花に儚い終わりがあるように、移り行く中にもピークがあります。作品は、そのピークで時を止めることができるんです」と内田氏は話す。今回の「アイスキャンディーシリーズ」でも、それぞれのキャンディーバーはすべて溶け方の異なる、それぞれの瞬間で時間が止まっている。「僕なりの絶頂の瞬間なんです。対象の持つピーク時のエネルギーを表現したかった」
今回展示されている「アイスキャンディーシリーズ」に、さらに意味を持たせた作品がある。「Cool It(クール イット)」というシリーズで、白クマが溶けた白クマのアイスキャンディーを食べているという作品だ。「時間」というテーマに、もう1枚「社会性」や「共通の話題」というレイヤーを重ねている。「地球温暖化により絶滅の危機にある ” 白クマ ” を現代文明のイコンとして “アイスキャンディー” と掛け合わせ、現代の大量消費社会に潜む恐怖を写し出した作品です。日々食べているアイスキャンディーはどこでも手に入るし、特別なものではない。でも、そのアイスキャンディーを作るのに、工場、流通過程、店舗、家庭などでたくさんのCO2が排出され、地球の裏側の白クマが死にかけている。そのことを知っていても、僕たちは文明のレベルを下げることはできないんです」。笑った白クマがまた白クマを食べて、食べて、だんだん溶けていくマトリョーシカ……。
「カワイイ」という中に潜む無邪気さや無関心という「怖さ」。または、「絶頂」と「 滅び」。そうした矛盾こそが内田氏の作品の正体だ。しかし彼の作品からは決して批難めいた主張は感じない。そのユーモアとアイロニーは、むしろ見る者の心を映し出す鏡と言えるのではないだろうか。
内田 有 Yu Uchida
Profile
- 2007年
- 東京藝術大学 美術学部 工芸学科 鋳金専攻 卒業
- 同大学 大学院 美術研究科 工芸専攻 ガラス造形研究室入学
- 2009年
- University for the Creative Arts(イギリス)
- BA (Hons) Three Dimensional Design -Glass 留学
- North Lands Creative Glass (スコットランド)
- Master Classes 2009: KAFFE FASSETT AND STEVE KLEIN: 'Colour and Texture' 参加
- 2011年
- 東京藝術大学院 美術研究科 工芸専攻 ガラス造形研究室 卒業
展覧会
- 2005年
- LUMBINI 展 (東京藝術大学大学会館)
- 2006年
- イモ☆コレ (天王洲アイル)
- 2007年
- 第55回 東京芸術大学卒業作品展 (東京都美術館)
- 2008年
- 硝子展 ーガラス造形研究室展ー (藝大アートプラザ)
- 2009年
- INTERACTION 展(イギリス)
- 2010年
- 硝子展 ーガラス造形研究室展ー (藝大アートプラザ)
- 2011年
- 第59回 東京芸術大学修了作品展 (東京藝術大学美術館)
- Gallery Face to Face // セレクション展2011 (Gallery Face to Face)
展覧会予告
- 「I LIKE CREATORS」
- 日時: 2011年3月22日(火)~4月1日(金)
- 場所:東京サンケイビル・メトロスクエアB1F・B2Fブリックギャラリー
- 主催:GIANT MANGO
公式ウェブサイト
- 内田 有 公式ホームページ
- http://www.yuuchida.com/html/home-j/home-j.html
内田 有 氏
大学院の修了展時(2011年)に撮影したセルフポートレートより