菅野 瑠衣(すがの るい)
特集 展覧会レポート @Gallery サテンドール
- 菅野 瑠衣 Rui Sugano
- 【3月27日迄の毎土・日曜日開催】
- 「またるゝ花の咲はじむらん」展
—アカデミックの四年制大学を卒業しアパレル企業勤務を経た後、一念発起して美術の道に飛び込んだ菅野瑠衣さん(26)。短い経歴ながら数々の賞を総なめにする彼女の世界観に迫る—
淡い水色の空に、大きく枝を伸ばす満開の桜。
一見すると華やかな春の光景だが、どこか儚さを感じるその絵のタイトルは「桜泣く」。
武蔵野市吉祥寺にあるギャラリー サテンドールで2月26日(土)〜3月6日(土)まで開催される「またるゝ花の咲はじむらん」展で展示されている50号のその油絵は、展覧会の開催前からすでに購入を希望する声が方々から聞こえていた。
「桜泣く」の作者、菅野さんは日本大学生物資源科学部森林資源学科を卒業している。大学では、森に住む熊などの動物の生態調査や研究をしていた。絵が好きな父親の影響で幼い頃から独学で油絵を描いていたが、画家として生計を立てようとは考えていなかった。
それでも、少しでもアートに関わりたいとの思いから、卒業後はアパレル販売員として一般企業に就職した。接客の仕事はやりがいがあったものの、「何かしらでデザインの仕事に携われるかもしれない」との期待は当て外れであったことに気がつかされた。「本当はアート系に進みたかった」と同僚にこぼした時、同僚は「今からでも専門学校に行けば?」と勧めてくれたが、「そんなお金もないし」とつい答えた自分がいたという。
「『真っ当な社会人か、アートの道か』という葛藤はいつもありましたが、いつの間にか言い訳をしている自分に気がついたんです」と菅野さんは話す。その時以降、菅野さんは絵を学ぶための学費を貯め始め、ついに2年間働いたアパレル会社を退職、吉祥寺にある中央美術学園の造形美術科に入学した。それ以降の彼女は、人より遅いスタートではあったものの、すぐに頭角を現していった。数々の公募展で入選し、今春卒業する専門学校でも卒業制作最優秀賞を受賞した。
- 『月の名を持つ花』
- 『風のささやき』
そんな菅野さんに、今回出展した作品「桜泣く」はどういうイメージで制作されたのかを尋ねると、「本当はあまり人に話したことはないんですけれど……」と少し照れながら答えてくれた。「春って新しいことが始まる季節ですよね。それは『別れる』とか『切り離す』ことでもあります。私は、新しい環境にすぐに馴染めないタイプなんです。でも、春ってお花見をしたり、みんなが浮き足立っている。そこにギャップを感じていたんですが、大学1年生の春に桜の木を見てふと、私には桜が泣いているように思えたんです」
菅野さんが絵を描くときは、まず先に視覚以外のイメージがあって、その後に視覚を求めるという。例えば、思っていることや悩み、曲のイメージなどが先行して存在し、後からそのイメージに合う風景などの視覚情報を探すのだそうだ。見つけた風景はデフォルメされて、幻想的な心象風景としてキャンバスの上に再構築される。旅先や名所で出会った美しい風景を描くわけではない。「近所の公園とか、ちょっとした場所なんです」と菅野さんは話す。「本当はインドア派なのに、わざわざ外に探しに出かけているんですよ」。それほどに湧き上がる思いやイメージがあるのだろう。だから彼女はいつも、彼女の中の風景を探している。
菅野 瑠衣 Rui Sugano
Profile
- 1984年
- 埼玉県生まれ
- 2007年
- 日本大学生物資源科学部森林資源学科卒業
- 2007年〜2009年
- アパレル販売員として勤務
- 2009年
- 中央美術学園造形美術科入学
- 第61回中美展(東京都美術館)入選
- 第63回示現会展(新国立美術館)入選
- 第76回旺玄展(上野の森美術館)入選
- 第62回中美展(上野の森美術館)入選
- 中央美術学園卒業制作最優秀賞
- 中央美術学園造形美術学科卒業見込み
グループ展
- 2010年
- 3月行進曲 中央美術学園内スペース/練馬
- 中美多摩支部展 ルネ・こだいら/小平
- 中美新人展 銀座ギャラリーアーチストスペース/銀座
- CHUBI遊展 NHKギャラリー/渋谷
- 赤・朱・緋色展 ギャラリーサテンドール/吉祥寺
- 2011年
- またるゝ花の咲はじむらん ギャラリーサテンドール/吉祥寺
- 中央美術学園卒業制作展 中央美術学園内スペース/吉祥寺
参考文献
- 2010年 『美術の窓』12月号 P197-198掲載
ブログ
- 『菅野瑠衣blog 縷々累々』
- http://blog.goo.ne.jp/gooruiruirui